誰がプロダクトオーナーをやるとよいのか?
みなさんこんにちは。@ryuzeeです。
最近立て続けにプロダクトオーナーを誰がやるとよいのか聞かれることがあったので、パターンとメリット・デメリットを整理しておきます。 なお、組織のサイズや業種、扱っているプロダクトによっても変わってくるので、考え方のロジックとして読んでいただければと思います。
プロダクトオーナーとは?
まず最初に前提として、プロダクトオーナーの責任ややるべきことをスクラムガイド(2017)で確認しましょう。
5ページ:プロダクトオーナー
9ページ:スプリントプランニング(トピック1)
10ページ:スプリントプランニング(トピック2)
11ページ:スプリントレビュー
12ページ:プロダクトバックログ
13ページ:プロダクトバックログリファインメント
13ページ:ゴールへの進捗を追跡する
雑にまとめると、プロダクトオーナーは、プロダクトの価値を最大化する責任を負い、プロダクトバックログの管理の責任を持ち、開発チームにどの順番で何を作ってもらうかを都度決定するとともに、全体の進捗を明らかにすることになります。かなり大変そうです。
では、ここからは、これを組織の誰がやると良いのか、それぞれのメリット・デメリットなどを見ていきましょう。
事業責任者がプロダクトオーナーを担う
プロダクトを開発するということは、そこに事業があります。プロダクト自体は、事業を達成するための1要素ということになり、ほかにもマーケティングやサポート、営業などさまざまな要素が登場します。 事業責任者がプロダクトオーナーを担うということは、大きい会社であれば、たとえば事業部長が担うようなものです。スタートアップであれば創業者が該当することになるでしょう。
- メリット
- 予算を持っており、意思決定権限が強いので、プロダクトに対する判断を素早くできる。たとえば予算やチームメンバーを追加したり、リリーススケジュールを変更したりするということも比較的容易
- デメリット
- プロダクト以外の仕事も多数持っていることが多いので、継続的にスクラムプロセスに関与し続けること自体が難しいことが多い。たとえばイベントにプロダクトオーナーが来れず日程調整をするようなことが増え、プロセスのリズムが悪くなったり、プロダクトバックログの手入れが十分に行き届かず見切り発車が増える
- ほかの人に比べて立場が上であることが多く、開発チームとの間で健全な交渉が行われなかったり、フィードバックループが弱くなりやすい
個人的には、組織のサイズが小さいうちしか機能しないのではないかと思います。
ビジネスサイドの人がプロダクトオーナーを担う
たとえば、企画担当の人がプロダクトオーナーを担う例です。ある一定規模の組織になると、最初に出た事業のアイデアを具現化していくのに企画担当の人が参画して、詳細化していくことがよくあります。その上で投資判断などを経てゴーサインがかかります。このとき、引き続きその人がプロダクトオーナーになるイメージです。
- メリット
- ビジネスのことが分かっている(ドメイン知識がある)ので、どの順番に何をつくると良いかの判断がしやすい(意思決定の権限を事業責任者から適切に移譲されていることが前提になる)
- デメリット
- 技術的な知識がないことがあるため、性能やセキュリティ、運用といった非機能要件に関するプロダクトバックログアイテムを用意できなかったり重要性の判断を間違えることがある(そのためスクラムマスターや開発チームがプロダクトバックログの管理を支援するのに時間を使う必要がある)
- 組織として企画は平行して複数進めるようになっている場合、プロダクトオーナーが忙しくなりやすい
個人的には、プロダクトが生み出す成果に焦点をあてるといちばん成果を出しやすいように思います。
UXデザイナーやアーキテクトの人がプロダクトオーナーを担う
企画が通ったあとに、それをUXデザイナーやアーキテクトなどエンジニアリングに近い人に引き渡して、進めていくやり方です。 組織構造上、企画部門と開発部門が分かれているような場合によく見られる形態です。
- メリット
- 全体の使い勝手や、プロダクトにあった品質やアーキテクチャの構築という観点が考慮された状態でバランスを取って開発を進められる
- 開発チームと近いスキルセットなので、開発チームとのコミュニケーションは円滑に進みやすい
- デメリット
- プロダクトのビジョンを開発チームに伝え続けるのが大変
- プロダクトバックログの並び順や、機能をどの深さまで作るのかという点をプロダクトオーナーだけで判断することができず、企画側などのステークホルダーと常時交渉と調整が必要になる。関係性によっては常時プレッシャーをかけられることもある
- 時に、作りすぎてしまう可能性がある
顧客がプロダクトオーナーを担う
受託開発の文脈で検討することのある形態で、発注者側がプロダクトオーナーを担当し、スクラムマスターと開発チームを受注者側が担当する、というような形です。こう書いている時点で辛さが満載な気がします。
- メリット
- 顧客が自分自身の責任でドライブできる
- デメリット
- いままでのやり方と関与の度合いが変わってくるが、その時間を捻出できず、開発チームに十分な時間が使えない
- 発注側のマインドセットのままで、対立構造となってフィードバックループが形成されない
- プロセスを無視して、要求を押し付けてしまいやすい
- 開発チーム側がプロダクトの価値を理解できなかったり、プロダクトバックログアイテムごとの意図が分からないままに、開発しなければいけないようなことが起こりやすい
まとめ
プロダクトオーナーはやることがたくさんあるため、ボトルネックになりやすい存在です。 プロダクトオーナーがボトルネックになるのを避けるためには、プロダクトオーナーに適切な権限を持たせることが何より重要です(なんでもかんでもステークホルダーと調整していては進まなくなります)。また、その上で、プロダクトオーナーがプロセスを理解して、継続的に関与し続けなければといけません。それができる人をプロダクトオーナーにするのが良いでしょう。
それでは。
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