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ryuzeeによるブログ記事。不定期更新
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チームの状況を把握するための5つの質問

みなさんこんにちは。@ryuzeeです。

アジャイルコーチでもスクラムマスターでもエンジニアリングマネージャーでも、新しいチームと一緒に働くことになった場合にまず必要なのが情報収集です。 チームの様子を観察したり、1on1で聞いてみたり、ドキュメントを読んでみたりとさまざまな方法があります。 そこで、今回は直接チームのみんなに話を聞いて情報収集する場合に、5個だけ質問できるとしたら何を聞けばよいか考えてみました。

まず、初期の段階では、単に開発プロセスがうまく回っているかどうかだけを聞いてもあまり意味がありません。 そこでプロダクト、意思決定の方法、デリバリー、改善、チームのことを聞いてみようと考えてできたのが、以下の5つの質問です。


  • プロダクトは顧客の課題解決に役立っていますか?役に立つかどうか、役に立っているかどうかをどうやって確かめていますか?
  • いま開発している機能は誰にとってどう役に立ちますか?なぜ開発することになりましたか?
  • どれくらい頻繁に顧客に対してリリースしていますか? その頻度はどうやって決まっていますか?
  • 自分たちの仕事のやり方を改善していますか?最近改善したいちばん大きな問題を教えてください
  • チームは楽しく充実した仕事をしていますか?回答の根拠も教えてください

それぞれについて順番に見ていきましょう。

プロダクトは顧客の課題解決に役立っていますか?役に立つかどうか、役に立っているかどうかをどうやって確かめていますか?

この質問はプロダクトに関する質問です。

『プロダクトマネジメント――ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける』によると、プロダクトは提供側と顧客の間の価値交換システムです。 顧客が自身の課題を解決する、もしくは自身の課題の解決に役立つと判断するからこそ、プロダクトに対してお金などの対価を払います。 これによってプロダクトの提供を持続できるようになります。

「プロダクトは顧客の課題解決に役立っていますか?」という質問に対して、ノーという答えやわからないという答えが返ってきた場合は、プロダクトマネジメントが不十分である可能性を示唆しています。 また、単にステークホルダーからそのプロダクトを開発するように言われただけで、チームのプロダクトに対する関心が欠如しているということもありそうです。

「役に立つかどうか、役に立っているかどうかをどうやって確かめていますか?」という質問に対して、顧客インタビュー、エスノグラフィー、実験、さまざまなエンゲージメント指標やノーススターメトリックなどの話が出てきた場合はよさそうです。一方でダウンロード数やユーザー数、ページビュー数などのいわゆる虚栄の指標が出てきた場合は深堀りしたほうがよいかもしれません。

いま開発している機能は誰にとってどう役に立ちますか?なぜ開発することになりましたか?

この質問は意思決定に関する質問です。

「いま開発している機能は誰にとってどう役に立ちますか?」という問いに明確に答えられない場合は、チームがフィーチャーファクトリー(誰かに言われるままに、ただたくさん作ることを要求されているチーム)になっているかもしれません。 「なぜ開発することになりましたか?」に対する答えが、プロダクトオーナーが決めたから、とか、チームの外側のステークホルダーの強い要望があったから、といった場合も同様です。

反対に、プロダクトに対する顧客やユーザーからのフィードバックを受けて決定した、とか、プロダクトのノーススターメトリックやKGIを踏まえて、それらの値を改善するための実験の1つとして決定した、といった回答の場合は、自分たちである程度プロダクトに対する意思決定ができていることを示していそうです。

どれくらい頻繁に顧客に対してリリースしていますか?その頻度はどうやって決まっていますか?

この質問はデリバリーに関する質問です。

当然のことながら、すべてのプロダクトが日次で顧客にリリースされなければいけないわけではありません。プロダクトの性質によって適切なリリース頻度は変わります。 とはいえ、相当に安定しているプロダクトでなければ、3か月や半年に1回のリリースでは少ないかもしれません。 今のリリース頻度がプロダクトの性質を踏まえて決めているものなのか、チームの能力ゆえに決まっているものなのか(たとえば、テストを全部手動でやっているとか)、もしくは、会社のプロセス上の制約(たとえば、リリースには審査が必要でとても時間がかかるとか)によって決まっているのかを明らかにしておくことで、今後さらに深堀りすべき点が見つけられそうです。

自分たちの仕事のやり方を改善していますか?最近改善したいちばん大きな問題を教えてください

この質問は改善に関する質問です。

「自分たちの仕事のやり方を改善していますか?」と聞いて、改善していないと答えるチームはほとんど見たことはありませんが、とはいえ実効性のある改善を継続的にできているチームはそれほど多くはありません。 ひどい例だと、ふりかえりで多数のアクションアイテムを洗い出して、個人にアサインし、次回のふりかえりで着手もできておらずにそのまま先送りにするといったケースを見かけたこともあります。 またチームで着手できそうな簡単で時間のかからない項目だけを改善して(これはこれで進めればよいのですが)、自分たちのパフォーマンスを阻害するような大きな問題は諦めて目をつぶっていることもあります。

スクラムガイドの2020年版では、「スクラムチームは、自分たちの効果を改善するために最も役立つ変更を特定する。最も影響の大きな改善は、できるだけ早く対処する」と言っています。 「最近改善したいちばん大きな問題を教えてください」という質問によって、チームのパフォーマンスにインパクトを与えるような問題を放置せずに改善しているかどうかがわかりそうです。

チームは楽しく充実した仕事をしていますか?回答の根拠も教えてください

この質問はチームに関する質問です。

「楽しく充実した仕事」とは何かというと難しいですが、日々自分の能力を発揮し、自分自身にとって、チームにとって、はたまたプロダクトや会社、社会にとって意義があると感じられるような仕事ではないかと思います。 人によってこの定義は変わっても構わないのですが、少なくとも「楽しくないし充実していない」という回答であれば、それで仕事の成果を上げることは難しいのではないでしょうか。 また、これはマネジメントを始めとした組織的機能不全を表していたり、人の離脱の可能性を示唆したりもしています。

『スクラム―仕事が4倍速くなる"世界標準"のチーム戦術』のなかでジェフ・サザーランドはこう書いています。 「どんな仕事でも、仕事を形にするのはチームの力だ。車を造るチーム、問い合わせの電話に応えるチーム、手術を執刀するチーム、コンピュータをプログラミングするチーム、 ニュースを伝えるチーム、 テロリストが占拠する建物に突入するチーム。もちろん、 一人で仕事をする職人や芸術家などもいるが、チームの力が世界を動かしているといっていい。スクラムのべースもチームにある」。

チームが機能しないと複雑な環境下での競争には勝てませんが、この質問によってチームに深堀りすべき問題がありそうかどうかがわかります。


自分はこんな質問をしている!とかもっと良い表現がある!とかがあればぜひTwitterで教えてください。

それでは。