Q. スクラムマスターをローテーションするのはありですか
スクラムガイドはすべての詳細を規定するものでないので当然ですが、スクラムチーム内の責任(役割)の変更については何も書かれていません。
スクラムガイドにおけるスクラムマスターに関する主な記述に以下のようなものがあります。
- スクラムマスターは、スクラムガイドで定義されたスクラムを確立させることの結果に責任を持つ。
- スクラムマスターは、スクラムチームの有効性に責任を持つ。
- スクラムマスターは、スクラムチームと、より大きな組織に奉仕する真のリーダーである。
- スクラムマスターは、さまざまな形でスクラムチームを支援する。
すなわち、ローテーションにしたときにこれらの責務を果たせるのか?というのが論点になります。 最終的にはチームで判断することになりますが、一部の場合(スクラムの練習自体が目的の場合)を除いて推奨しません。
主な理由は以下のようなものです。
ローテーションすることで、誰がスクラムの有効性に対して責任を持つのかが分からなくなります。つまり責任の透明性がなくなります。スクラムチーム全体で責任を持つからいいのでは?と思うかもしれませんが、インクリメントと違って目に見えて評価できるわけではないので、難易度は格段に上がります
スクラムマスターはコーチ、ファシリテーター、先生役など複数の顔を持ちます。開発スキルとは異なる人間系のスキルが要求される専門的な職種であり、時間をかけて能力を向上させる必要があります。1人の開発者がスクラムマスターを兼任する場合でもスクラムマスターとしてのスキル獲得は時間がかかるなかで、ローテーションしてしまうとさらにスキル獲得に時間がかかることになります。その間スクラムマスターの有効性は低いままです
複雑な問題を解決するためには、仕事のやり方はある程度安定している必要があります。複雑な問題を解決するときに、プロセスやツールが複雑だと本質に集中できません。ローテーションによって、スクラムマスターごとに頻繁にやり方が変わってしまうとプロセスが複雑になりチームが混乱する可能性があります
すなわち、スクラムチームが機能していて結果が出せるくらいに安定しているのであれば、実験としてスクラムマスターのローテーションを試すのはよいですが、そうなっていないうちにローテーションしてしまうと、スクラムが機能しないままになってしまう可能性がある、ということになります。
カテゴリ
SCRUM BOOT CAMP THE BOOK【増補改訂版】 スクラムチームではじめるアジャイル開発
- 著者/訳者:西村 直人、 永瀬 美穂、 吉羽 龍太郎
- 出版社:翔泳社
- 発売日:2020-05-20
- 単行本(ソフトカバー):288ページ
- ISBN-13:9784798163680
- ASIN:4798163686