Q. スクラムチーム内にマネージャー(評価者)がいてもいいですか
この質問は言い換えると、マネージャー兼プロダクトオーナー、マネージャー兼スクラムマスター、マネージャー兼開発者のありなしです。
スクラムガイド2020では、スクラムチームの構造や説明責任に関する記述は以下のようになっています。
スクラムチーム内には、サブチームや階層は存在しない。
自己管理型であり、誰が何を、いつ、どのように行うかをスクラムチーム内で決定する。
スクラムチームは、(略)プロダクトに関して必要となり得るすべての活動に責任を持つ。 スクラムチームは、自分たちで作業を管理できるように組織によって構成され、その権限が与えられている。
スクラムガイドでは、マネージャーという単語は登場せず、また個人のパフォーマンスや人事評価などについても一切触れられていません。 したがって、アジャイルやスクラムの原則や価値観を踏まえて、自分たちで答えを考えることになります。
それを踏まえた答えは、「基本的には悪手なので避けたほうがいい」です。
スクラムの目的は、個人のパフォーマンスの最大化ではなく、スクラムチームが目指すゴールを達成しそこから価値を生み出すことです。 スクラムチーム全員が同じゴールの達成に向けて協力しながら進めることが最大の関心事にならなければいけません。 しかし、ここでスクラムチーム内に人事評価を行う権限を持つ人がいると、その人の関心事は複数になってしまいます。 スクラムの「集中」という価値基準を考えると、これは望ましい状況ではないと言えるでしょう。
また別の観点としては「自己管理」も挙げられます。 スクラムチームは全員で自己管理しますが、評価者がチーム内にいる場合この自己管理を阻害する可能性があります。
組織構造上、評価者は被評価者と比べると立場が上になります。したがって評価者がスクラムチーム内で発言すると、被評価者はその発言をスクラムチームの協働のためのものではなく、命令とみなします。これは評価者の意図には関係ありません(古典的な言い方をすると、「どの帽子をかぶっているのかがわからない」ので、被評価者はより自分にとって安全な判断をします)。こうなると、発言が抑制されたり、スクラムイベントでその人の行動や発言を伺うようになったりして、スクラムチームとしては機能しなくなります。これは価値基準の1つである「確約」を阻害しています。
スクラムチーム内に評価者を入れざるを得ない場合は、(1) 評価の軸を明言しておく (2) スクラムチーム内でのすべての発言は評価者としてではなくメンバーとしてのものであることを繰り返し明示する、といった対応が考えられますが、難しいことには変わりません。
なお、スクラムチームのなかにはマネージャーがいないほうがいい、という話であり、組織にマネージャーが不要であるという意味ではありません。
カテゴリ
SCRUM BOOT CAMP THE BOOK【増補改訂版】 スクラムチームではじめるアジャイル開発
- 著者/訳者:西村 直人、 永瀬 美穂、 吉羽 龍太郎
- 出版社:翔泳社
- 発売日:2020-05-20
- 単行本(ソフトカバー):288ページ
- ISBN-13:9784798163680
- ASIN:4798163686